米American Battery Technology Company、最大1億ドル相当のブラックマス輸出許可を取得
米国のバッテリーリサイクル企業American Battery Technology Company(ABTC)は、最大1億ドル相当のブラックマス(Black Mass)の輸出許可を取得したと発表しました。
同社のCEOであるRyan Melsert氏によると、今回の許可により、使用済みバッテリーから回収したブラックマスを販売し、収益を確保しながら、米国内の鉱物精製インフラが回収・破砕能力の拡大に追いつくまでの時間を確保できるとしています。
米国のブラックマス輸出規制と今回の特例措置
今回の輸出許可は、米国商務省産業安全保障局(BIS)によって発行されました。
米国では2026年8月27日より、国内企業が取り扱うブラックマスおよびタングステンスクラップについて、国内供給を優先する新たな規制が導入されています。
この措置は、2026年7月に発表された大統領決定を受けたもので、重要鉱物の輸出を制限する権限が商務長官に付与されたことが背景にあります。
ABTCが取得した輸出許可は、この規制が適用される1年間にわたって有効となる見込みです。
これにより、同社は国内の精製設備や提携先企業の処理能力を拡充するまでの間、海外へのブラックマス輸出を継続できることになります。
年間2万トンの処理能力を持つネバダ州のリサイクル施設
ABTCは、2023年から米国ネバダ州リノ近郊で重要鉱物リサイクル施設を稼働させています。
同施設は年間20,000トンの処理能力を有し、データセンター、電気自動車(EV)、家電製品などから発生する使用済みリチウムイオン電池を破砕・処理しています。
現在、同社は米国南東部に2か所目となる精製施設の建設を計画しており、建設候補地の最終選定を進めています。
新施設では、ネバダ州の既存施設の約5倍に相当する処理能力を目指しています。
なお、両プロジェクトは米国エネルギー省(DOE)から連邦政府の補助金支援を受けています。
Melsert氏は、今回の規制と同社の事業方針について、次のように説明しています。
「輸出規制は、米国内での生産を促進するために導入されました。当社も独自の精製施設の建設を進めており、まさに政策が意図する方向に沿って事業を展開しています」
米国内の精製能力不足を背景に、韓国などアジアでの処理を継続
ABTCが取り扱うブラックマスは、データセンター、EV、一般消費者向け電子機器などから回収されたリチウムイオン電池を破砕した際に発生する原料です。
ブラックマスには、コバルト、ニッケル、リチウムなどの有価金属が含まれており、さらなる精製工程を経ることで、これらの金属を回収することができます。
しかし、現在の米国内ではブラックマスを受け入れ、金属を精製できる企業や施設が十分に整っていません。
そのため、ABTCは回収したブラックマスの相当量を、韓国などアジア諸国の精製事業者へ輸出し、コバルトやニッケルなどの金属回収を行う方針です。
今回の許可は、輸出規制導入後に公表された初めての許可事例とされており、ABTCが米国内の重要鉱物サプライチェーンにおいて、一定の信頼性を持つ事業者として認められたことを示しているとMelsert氏は述べています。
また、海外の提携企業との関係を維持しながら、将来的には米国内での精製・金属回収体制を構築することを目指しています。
Melsert氏は次のように述べています。
「当社はこれまでも、サプライチェーンの各工程を一段階ずつ構築しながら、事業を拡大する方針を取ってきました」
米国内で進む重要鉱物リサイクル設備の整備
2026年夏には、ABTC以外の企業でも、米国内の重要鉱物リサイクル能力を強化する動きが相次ぎました。
Gloyd Recycling Solutionsは、電子機器に内蔵されたバッテリーを取り外さずに破砕処理できる「BIDS(Battery-In-Device Shredding)」システムの米国内施設への導入を開始しました。
これにより、リサイクル事業者はバッテリー内蔵型電子機器を自社施設で処理できるようになります。
また、Cyclic Materialsはアリゾナ州にレアアースのリサイクル施設を開設しました。
R3 Lithiumはジョージア州に、ブラックマスやバッテリースクラップから炭酸リチウムを回収し、リチウムイオン電池の原料として再利用する施設を開設しています。
さらにNth Cycleも、ブラックマス処理施設向けの原料調達契約や、回収製品の長期販売契約(オフテイク契約)を複数締結するなど、米国内での重要鉱物回収ネットワークを拡大しています。
このように米国では、使用済みバッテリーの回収・破砕にとどまらず、金属の精製・再資源化までを国内で完結させるための設備投資が進められています。
国内サプライチェーン構築には長期的な協力関係が不可欠
ABTCは、回収・精製した製品について、すでに販売先とのオフテイク契約を確保していると説明しています。
一方、Melsert氏は、サプライチェーンの構築には多くの企業との調整が必要であり、連邦政府の政策変更がこうした取り組みを一層複雑にしていると指摘しています。
前政権では補助金などによる支援策が中心でしたが、現在は関税や輸入政策を重視する方向へ転換しています。
こうした政策環境の変化があるなかでも、同氏は企業が自ら管理できる事業基盤を着実に構築することが、米国の重要鉱物需要を満たすことにつながると強調しています。
「サプライチェーンの構築には、多くの関係者との調整が必要です。当社にとって顧客は、単に製品を購入する相手ではなく、共に事業を進めるパートナーです。こうした施設の建設には数年を要するため、業界全体が安定した政策環境を求めています」
2026年度売上高は前年比407%増加
ABTCは2026年度、過去最高の業績を記録しました。
同社の2026年度売上高は2,170万ドルとなり、前年度比407%の増収を達成しました。
また、調整後売上総利益は170万ドルとなり、2025年度の620万ドルの損失から黒字へ転換しています。
こうした業績の改善は、使用済みバッテリーのリサイクル事業が拡大していることを示しています。
米国では重要鉱物の国内供給体制を強化する政策が進められていますが、回収・破砕能力に対して、金属を抽出・精製する国内設備はまだ十分ではありません。
そのため、当面は韓国をはじめとする海外の精製事業者を活用しながら、段階的に米国内の処理能力を拡大していく動きが続くとみられます。
今回のABTCへの輸出許可は、国内資源循環の促進と既存の国際的なリサイクルサプライチェーンを両立させるうえで、注目される事例となっています。
