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2020年1月22日
北米南米
刑務所で起業。リサイクルの異端児、EVバッテリー危機打開に挑む

電気自動車(EV)のバッテリーの原材料はニッケル、リチウム、コバルトなどです。採掘するのはコンゴの貧しい子どもたちだったりするので、限りある資源をすり減るまで使うことは、電気ゴミが抱える今世紀最大の課題とも言われます。

専門家の最新の推計によると、2017年に売られたEV100万台のバッテリーが生む有毒廃棄物は実に25万トン! 2020年代にはさらに桁違いに増えることが見越されます。

半死状態のEVから回収したバッテリーたちをソーラーパネルの蓄電池に再利用する事業でBigBatteryという会社を刑務所から立ち上げたEric Lundgrenさんは、少しでも再利用して環境負荷を減らしながら、利益も出したいと考えています。取材にこう答えてくれました。

「会社はいま社員が約50人という規模ですが、2019年8月の創業以来すでに700万ドル(約7.6億円)の投資も入り、使用済みのリチウムイオンバッテリーを米国内自動車メーカーの半数と2次流通市場から買い取っています。埋め立てゼロをポリシーに掲げ、買い取ったものはすべて商品価値のあるものに再利用するか、バッテリー部品の場合は再製造したうえで再販していますね。2019年だけで使用済みEVバッテリーの処理事業で、4300万ドル(約47億円)の契約を取りました」

 

英ファラデイ財団リチウムイオンバッテリー再利用事業(ReLiB)の調査共同責任者、Simon Lambert氏に取材してみたら、「バッテリーパックを大量に仕入れる手立てさえあれば、市販のバッテリーに転用することは十分可能」だし、「理論上」は採算がとれるというお話でした。

 

こうして廃品回収しているLundgrenさんですが、ガジェットリサイクル歴は古く、16歳のときから夢中になって、2012年にはIT Asset Partnersという“ハイブリッド”(溶解処理&転用処理)なリサイクル会社を立ち上げたことで知られます。ところが同年、リファービッシュ用に作成した何百、何千というWindows修復ディスクをめぐってMicrosoftと法廷バトルに巻き込まれてしまい、そんなもん金銭的価値ゼロと主張したのですが、版権違反で損害は70万ドルと訴えられて、2018年6月に逮捕・拘束され罰金5万ドルと懲役15か月の刑が言い渡されてしまったのです。結構米Gizmodoでも大きなニュースになりました。

 

ただ壁の中で暇になるのもアレなので、少数精鋭チームを雇って、バッテリー再利用に特化した新会社の立ち上げを命じてから刑務所に入り、服役中は手紙でチーム、クライアント、提携先と連絡を続け、面会時間に打ち合わせを重ね、「全部刑務所から立ち上げた」のがBigBattery社というわけです。

 

態度がまじめだったおかげで3か月早く出所し、2019年6月、社会復帰するとすぐさま「スイッチを入れて」操業がスタート。1週間も経たないうちに7,000平米あった最初の倉庫は埋まってしまったというから驚きです。同社が現在保有するバッテリーの出力キャパは全部合わせて407メガワットで、米国の家庭14,000世帯の1日分の電力消費量に相当します。

 

EVバッテリーは数年から数十年が寿命なので、BigBatteryが買い入れる段階ではまだまだ寿命が残っています。たとえば、買い取った中にはこんなのも混じっています。

・交通事故で大破して車は使えないけど、バッテリーは傷ひとつない

・電池モジュール(組電池)数十点のうち、死んだのは1、2点で除去可能

 

そこで社員が日々査定を行ない、そのデータをもとにリサイクル方法を考えていくんですね。流れとしては、まず特別高圧電気取扱業務資格のある技師が主電源を切断し、だれも感電しない状態を確保してからチームでテストを行なうそうです。 電圧テストで、バッテリーの再起不能な完全死が確認されれば、ほかのOEM製ケースと一緒に通常のリサイクル処理に回されます(圧縮して溶かして、使える原料を抽出する)。まだ蓄電できるとわかれば、3回の充電で電池もちを調べて用途を割り出します。点検後は、使えるセルとモジュールの中から同じグレードのものをまとめ、さまざまなサイズとボルト数のバッテリーに加工していく、というのが流れです。

 

Lundgrenさんの見立てでは、使用済みとして流れてくるEVバッテリーの大多数は、まだ80%以上も蓄電容量が残っているんだとか。同社から海外販売を請け負うNew Use Energyの創業者Paul Shmotolokhaさんも、「車の走行には使えなくても再生エネルギーの蓄電池としてはまだまだいけることも多い」、「ある用途(輸送)の蓄電技術を別の用途に組み替えて、それで役目を立派に果たせるんだから、これからが楽しみな分野」と言っていました。

 

車と並んで多いのが電動キックボードのバッテリーです。車や人とよ~くぶつかりますもんね。なんか使って数か月でお陀仏になることもあるのだけど、Lundgrenさん曰く、中のバッテリーは10年近くもつそうなのです。めちゃもったいない!ということで、今は電動キックボード75,000台から取り出して、キャンプなんかで使えるポータブルの電池(1個1.8kg)をこしらえているんですってよ?

 

市場に出回るEVバッテリーの数はだれにも把握できていないので、BigBatteryが相手にする市場の規模も実はよくわかっていません。電気ゴミのご多分に漏れず、車もキックボードもバスもOEMが廃品回収することはめったにないため追跡するのはとても大変なのだと、ファラデイ財団のSimon Lambertさん。EV搭載バッテリーの実態が「まったく追跡不能」な状態はあと10~20年は続くのではないかというのがLambertさんの見立てです。

 

ただひとつはっきりしていることは、EVのバッテリーは最初のサイクルを終えて廃品になるケースが多く、それ目当てにリサイクル業界が活況を呈しているということです。Lambertさんが教えてくれた英国内の新会社だけでもHyperdrive Innovation、Connected Energyがありますし、米オクラホマ州に5年前に生まれたSpiers New Technologiesも全米の自動車メーカー向けに「ライフサイクル管理」(修理・再編・再利用)を提供し、月2,000個のペースでEV用バッテリーパックをリサイクルしています。

 

BigBatteryもシンガポール新物流センター、香港新拠点を次々開き、米チャッツワースの倉庫も1万3470平米分拡張し、2019年11月には黒字に転換。年内には処理倍増を目指しており、「クレイジーなことになる」と言っています。

 

産業が成熟していけば、難しい課題もありますから。バッテリーは取扱いが難しくて、一歩間違うと爆発、毒ガス排出、感電死になってしまうので、リサイクルでは安全が最優先です(同社は米環境保護庁の安全、健康、環境基準をクリアしたR2(責任あるリサイクル)認証企業で、バッテリーはすべて運輸省の認証済みの梱包で出荷しているおほか、リチウムイオン電池の消防訓練を半年ごとに実施しています)。

 

バッテリーの設計と原料も急激に進化中で、最近は処理のカスタマイズが必要なものもあり、時間と人手もかかります。開発には「何億円」規模を投じているんだとか。また、今はまだ最初の使用済みだから残量が豊富ですけど、今後2回目、3回目のリサイクル品も回ってくるようになれば、用途が限られてくる難しさもあります。

 

また、世界的なリチウムイオン電池需要の高騰で、コバルトをはじめとするレアメタルがますます稀少になるという不安要素もありますよね。奪い合いの圧力は必至で、リサイクルにしわ寄せがくるかも…と、ファラデイ財団フェロー研究員のGavin Harperさんは言っていました。どうしてもコバルトが要るから、バッテリーを送電網の蓄電用に転用する暇があったら溶かしてEV用に採掘してしまえ、という利得の圧力が増すことになります。「市場原理優先か、資源有効活用優先かで綱引きは続きます。バランスをとるのが大変」とHarperさん。

消費者団体の米公共利益調査グループ(PIRG)で「修理する権利」キャンペーンを総括するNathan ProctorさんもBigBattery社については、「作るモノを減らすことは使い捨て社会の脱却には不可欠で、すでに作ったものを再利用することは脱却の最短ルート」とメールでコメントを寄せてくれました。「再利用しないと大変なことになる」というLambertさんの言葉もそうだし、そこまで片付いて初めてエコと呼べるのかも、EV。

https://www.gizmodo.jp/2020/02/a-recycling-renegade-is-out-of-prison-and-ready-to-tack.html